ePathProjectトップePathProjectについて
済生会熊本病院 副島秀久
このたびスタート致しましたePathプロジェクトの代表研究者を努めます済生会熊本病院の副島秀久です。ホームページ開設にあたり本ePath事業の背景と概要を簡単にご説明したいと思います。
ePathプロジェクトの背景には2015年から始まった医療情報学会(JAMI)と日本クリニカルパス学会(JSCP)の合同委員会での議論がありました。この間、診療の基本単位をアウトカム・アセスメント・タスク(OAT ユニット)という構成で示す概念整理や、記録の在り方、入力の形式、アウトカム用語のマスター化(Basic Outcome Master:BOM)、バリアンス分析手法の検討、可視化などに取り組み、ベーシックアウトカムマスターの市販など一定の成果を生み出してきました。こうした活動が認められ、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)の平成30年度 「標準的医療情報収集システム開発・利活用研究事業」の採択課題として、われわれが提案した「クリニカルパス標準データモデルの開発および利活用」が選択され、2018年10月1日に正式にePath プロジェクトとして発足し、今後3年間にわたって様々な事業を行う計画となっております。
ePath プロジェクトの目的はクリニカルパスの考え方や仕組みを活用して電子カルテから臨床データ、特にプロセスデータを効率よく収集し、これを解析して医療の質改善に役立てることです。現在の電子カルテシステムからビッグデータを抽出し、これを分析することは容易ではありません。とくにベンダーや医療機関が異なるとデータの整合性、継続性、互換性を確保するのはほとんど不可能と言えます。
そこで8疾患を選び、そのクリニカルパスについて、アウトカムやアセスメント(観察項目)、タスクの標準化を行ったうえで、入力形式や出力形式をそろえ、リポジトリに格納し、これらのデータを統合して解析するという目標をたてました。現在5つのワーキンググループで議論と作業を進めておりますが、非常に細かい、根気のいる作業であり、医療者、医療機関、ベンダー、SE、だけでなく事務作業に携わるスタッフなども含めた多職種の方々のご協力が必要です。大変規模の大きな仕事ですが、これが完成すれば、世界に先駆けて医療ビッグデータとくに精緻な診療プロセスデータの解析が可能になり、データの価値が際限なく拡大することを期待しています。
本事業をご支援いただいております、AMEDをはじめ研究にご参加いただいている病院、ベンダー、関連学会の皆様に改めて感謝の意を表すとともに、本事業が所期の目的を達成できるよう、引き続きご支援を賜りますようお願い申し上げます。
プロジェクト名:クリニカルパス標準データモデルの開発および利活用(略称:ePathプロジェクト)
研究期間:2018年10月1日から2021年3月31日
研究代表者:済生会熊本病院 副島秀久
現在、日本国内の病院の1/3以上に電子カルテシステムが導入されており、電子カルテを導入すれば日本全国の患者データの比較が容易にできるかと思われたが、電子カルテシステムベンダー間でデータ交換できるシステムは存在していないため、データの後利用は困難な状況にある。一方、クリニカルパス(以下、パス)は、入院診療計画書として保険収載もされており、広く電子カルテ上でも普及しているので、パスを病院間で共通化することにより、複数医療施設間での患者データを比較できる可能性があるが、ベンダー間でパスの項目、構造とも大きく異なっており、実際には比較が困難な状況にある。
<入院診療計画書>
入院時に医師、看護師およびその他の医療従事者が共同して患者の診療計画を作成し、患者に対し交付される文書。病名、主治医、症状、治療計画、手術内容および日程、推定される入院期間等についての記載が必要である。
保険点数上は、入院診療計画が策定され,説明が行われていない場合は,入院基本料等より減額となる。
<クリニカルパス>
「患者状態と診療行為の目標、および評価・記録を含む標準診療計画であり、標準からの偏位(ずれ)を分析することで医療の質を改善する手法」と定義される。「アウトカム志向型パス」は、アウトカムユニット(アウトカムーアセスメントータスク)を医療行為の最小単位と定め、この最小単位の組み合わせにより、診療プロセスを構築するものであり、日本クリニカルパス学会が提唱している。下図にアウトカムユニットと、その記録の例を示す。
アウトカムユニットの構造と記録の例
電子カルテシステムベンダーの間で、相互運用性のある標準クリニカルパスシステム(以下、標準パスシステム)を構築し、複数施設において診療プロセスをアウトカム項目中心に管理できるようにすると同時に、多施設から収集されるパスデータを蓄積して、日本クリニカルパス学会が開発した患者状態アウトカム用語集BOM(Basic Outcome Master)を統一用語として利用して、診療プロセス解析、アウトカム解析を可能とすることを目的とする。倫理指針に基づいたデータ解析を実施するとともに、次世代医療基盤法に基づいたデータ解析のための準備を行う。
<選定された8疾患>
BOMの図
クリニカルパスを研究する日本クリニカルパス学会(JSCP)と日本医療情報学会(JAMI)は、2015年より合同委員会を開催して、クリニカルパスの電子カルテでの運用について協議してきたので、この合同委員会を基に研究体制を構築した。